熊本
ジャズライブガイド

スタンダード解釈

書き譜ソロのつくり方

この「スタンダードの解釈(初級)」では、スタンダード曲をダイアトニックコード・スケールにて分析するということをやっておるわけです。これだけでも、「ほほお!」と思ってくれている初心者の方がいらっしゃるとは思いますが、それぞれのコードに適用可能なスケールがわかったとして、「じゃあソロをつくってみなさい」といわれると、これまた「う………」となるわけですね(笑)。

僕のところの生徒さんにしたって、やはりここで苦しむ人が多いです。でもよくよく考えてみると、スタンダード曲に対してツーファイブに因数分解して適用可能なスケールを当てはめることが出来るという状態は、なんだか理論的な香りがしてすごいことまでわかってしまったかのように錯覚しやすいですけれど、英会話の習得に置き換えて考えてみると、「SVOC構文」などの文法的な理解がとりあえず出来ている状態くらいなもんです。
まがりなりにも自分で喋れるようになるためには、この他にも単語(モチーフ)や文章(フレーズ)、口語的な言い回し(リック)を少しは覚え、しかも積極的に喋る練習(シャドウセッションやマイナスワン)をするというような訓練をしないといけないだろうというのは、きっとみなさんにも想像できると思います。

さてここで、本当に即興で喋れるようになる前の段階として、あらかじめ台本を仕込んでおくという方法が、有効な訓練のやり方のひとつとしてあります。「書き譜ソロ」とか「書きソロ」とかいわれているものですね。
では、…ツーファイブ分解も出来た。適用可能スケールもわかった。モチーフもいくつか知っているし、それを装飾する(あるいはつなげる)クロマティカルな音の使い方も少し知っている…、そんな状態で意気揚々と書き譜ソロにチャレンジすると、ちっともかっこいいソロがつくれなくてしょげかえってしまう人の多いこと!
今日の記事の後半部分は、そういう人のためにヒントになるようなことを書いてみたいと思います。

というわけで、書き譜ソロのつくり方の心得です。

1.構図を考えるべし
書き譜ソロでも、傑作と駄作を見分けるポイントの一つは、「譜づらが美しいかどうか」というのがあります。かっこいい書き譜ソロは、不思議に見た目もかっこいいのです。それを添削する側としては、作成者が口で説明する前に譜づらを見ただけで「ははあ、なるほど!」と感心してしまうようなソロが提出されないかなあと心待ちにしています(笑)。

「ここは音数を少なくして、ゆったりとかまえてみました」
「ここはシンコペーションを多用して緊張感を出してみました」
「ここはコードチェンジが細かいので、細かくコード感を表してみました」
「ここは1コーラスの中で一番盛り上がるところなので、高音域の速いパッセージを入れてみました」
「ここはテーマをフェイクするだけにして、ソロが終わる感じを出してみました」

いきなりフレーズづくりに向かうのではなく、リードシートを前にどのような構成にするのか、以上のようなことを譜づらに表すにはどうしたらいいのか、しばし考えてみましょう。

2.アイデアをパクりまくるべし
材料(スケール)やレシピ(クロマチックアプローチなど)が少しわかっているからといって、美味しい料理(フレーズ)はなかなかつくれないものです。トランスクライブ譜やフレーズ集にのっているフレーズを思い切りパクリまくりましょう!添削者から「なにこのフレーズ、イモい」と言われたら、「デックスのフレーズなんですけど」とやり込めましょう(笑)。

最初はただ同じコード進行のところにあてはめる(あるいは移調してあてはめる)だけでもいいですが、こうしたフレーズにはメロディックなアイデア、和声的なアイデア、リズム的なアイデアが込められていることが多いです。そうしたアイデア部分だけを抜き出して、改めて自分でそのアイデアを活用してフレーズをつくってみるといいと思います。
「アイデアを抽出する」「たくさんのアイデアからいくつかを組み合わせてみる」「実際につくってみる」こうした作業を繰り返すことに「書き譜ソロ作成」という訓練の主眼があるわけです。まったくの白紙から自分オリジナルのメロディを生み出す作業というよりも、先達のアイデアをパクって、そのアイデアを自分のものにする作業なんだと思ってください。

3.駄作でもたくさんつくるべし
要するに「作文」なんですね。たくさん書いていれば、文章を書くことそのものに馴れてきます。この慣れが大事でもあるわけです。また、ストーリーや文体を考え、読者に対して煽ったり裏切ったりいろいろと作為を凝らしているうちに、だんだん上手になっていきます。
それから、自分の文章というものを客観的に自己評価する作業を繰り返していれば、他人の文章の長所や粗にも気がつくようになります。

こうしたことを「作文」から「書き譜ソロ」に置き換えて考えてみれば、最初っから優れた作品をつくれるわけもないことが納得できるでしょう。ですから、ひたすらたくさん書くしかない。
ただ向上心は大事ですから上記2点についてしっかり考えながら、でもあんまり自分を卑下せず腐らずに…、その辺の気持ちのバランスも長く続けていくには必要になってきます。

えー、難しいところではあるとは思いますが、ぜひとも頑張って乗り越えていただきたいものです。f(^_^;
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